愛色と哀色の夜

何度か体を揺すると、麗菓さんはもぞもぞとして起き上がりました。

「……あれ…此処……?みんなは…?」

麗菓さんは辺りを見回すと少し首を傾げて此方を見詰めます。その愛らしい仕草にボクは思わずどきっとしました。

「此処はあたしの店の2階よ。とは言え、外装だけじゃ2階があるなんてわからないでしょうけど」

さっきより優しい声で杏さんは言うと、麗菓さんを見て小さく微笑みます。その様子に、さっきまでの喧嘩のあとはありませんでした。

「わたし、寝てたんですか…?」

えぇ、答える杏さんは初めてお店で会った時と同じように、気さくに微笑みます。

「30分ぐらいかしら?」

なるほど、部屋の窓を覗くと、お店に来た時よりも空の色が濃くなっている気がします。麗菓さんは頷くと杏さんの後ろでボク達を見詰めている人に声を掛けました。

「…あの、これからわたし達は何処に行くんですか…?」

気怠さそうにその人ルイさんは息を吐くと何かを発するように口を動かし、俯いてしまいました。

「…?………あの…」

「何よ、はっきりしないわね」

麗菓さんの言葉に被せるようにして杏さんは続けます。

「はっきりしたらいいじゃない。…言っておくけど、此処まできてやっぱりやめた、とかは無しよ」

ふたりのやり取りは何を言っているのかはよくわからなくて、麗菓さんは首を傾げます。

「………それに」

ボクの方を向いて、薄く微笑む杏さんは以前何処かで会ったような、そんな感覚に陥りました。

「あんたもあたしも安心して、未来に行けないでしょう?」

その言葉の意味はわかりませんが、ルイさんは何か気付いたように顔を上げました。

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