愛色と哀色の夜
「さぁ、早く行こう」
先程の男性に促され向かった場処には、一台の車が止まっていました。
「…これに乗るんだよ」
ルイさんは目も合わせずに言うと、颯爽と車に乗り込んでしまいます。ルイさんの乗り込んだあと、先程の男性もまたわたし達には目もくれず車に乗ってしまいました。
あとに残されたのは、わたしと麗奈。そして、さっきから泣きそうな瞳で此方を見詰める杏さんと、特に何もない、無関心な瞳の痩身の男性だけです。
「…」
「……ねぇ、…そろそろ、乗らない…?」
先に沈黙を破ったのは、麗奈でした。
「…そう、ね。……そうしましょう…」
痛々しいぐらいの悲痛さを滲ませた声は、夜の闇に消えて溶けていきます。
痩身の男性は、無言でわたし達を見ると、運転席の方に乗りました。あとにいるのは、杏さんだけです。
「…杏さんは、行かないのですか…?」
問うと杏さんはぴくりと肩を震わせ、
「…ごめんなさい、あたしは行けないの…」
どうしてか杏さんは、気まずそうにわたし達を見詰め、やはり気まずそうに目を逸らしました。
「……ごめんなさい、貴女達をまた引き離すことになって…」
杏さんは何事かを囁きましたが、わたしはぼんやりとしか聞き取ることが出来ませんでした。