愛色と哀色の夜
「……少し、眠ってもいいですか……?」
杏さんの元を出てから暫く、わたしは睡魔に憑かれました。「眠り」というその言葉を口にした途端、鉛か何かのように体が重くなりました。
「いいよ、眠った方がいい。着いたら起こすよ」
そう無機質に告げたのは、運転席にいる痩身の男性です。
「…もし必要なら、俺のコートを使うかい?」
ルイさんはコートの留め具を外し、わたしと麗奈に掛けてくれます。
「…ならお言葉に甘えて、おやすみなさい」
言って麗奈の頭に被らないよう首を横にし、眠りにつきました。