愛色と哀色の夜
「やっと、来たんだねぇ。……待つのは慣れてるけど、それって待たされるのに慣れてる、って訳じゃないんだよねぇ…」
部屋にいた人物は言うと、
「ちょっと待っててね、今お冷やを持って来るから…」
わたし達の入って来た扉を開け、部屋を出て行きました。
「…あの人は…?」
「…僕、というか。な……ルイさんの知り合いだよ。知り合いって言ったのはあの人なんだ」
「運び屋」さんだからでしょうか、「風宮」以外にも沢山裏の世界に精通してそうな鷹井さん。ですが、何故ルイさんの知り合いなのでしょう…
「ルイさんから少し聞いた話だけどね、麗菓ちゃんに深く関わる人らしい」
わたしに関わる、つまり「風宮」に関わる「何か」ということでしょうか。わたしは居住まいを直し、先程の人が戻ってくるのを待っていました。
「…なんだい、ふたりして葬式みたいな面してさ。折角だし、もっと話したらいいじゃないか」
いつの間に戻って来たのでしょう、その人は水をわたし達の前に置くと、反対側に座りました。
「…久しぶりさね、最後にあったのは確か……」
「70年前、まだ辛うじて『大罪人』が生きていた時です」
そうかい、その人は言うとついと此方を見て
「…確かに、《イア》…この場合《璃菜》かい?の面影があるね……」
「《アンネ》の子ども…」
「蛇の道は蛇、ということさ」
「はぁ…」
ふたりはよくわからない会話をして、わたしを見ました。
「…さて、お喋りはこのぐらいにして……」
「こんにちは、あたしは杏子(きょうこ)」
「忘れてるようだし、知らないだろうけど…」
「あんたは、昔あたしの店で働いてたんだよ」