愛色と哀色の夜
狭間
*****
面白いことになった。
奈央が連れて来た少女を見た瞬間、あたしはそう確信した。
あたしは普段、奈央が『拾って』きた『売り物』に対しては本人に直接意思を聞くことがあるけど、花耶に対してはそうしなかった。
花耶は、酷く大人しい子どもで、無口で、…あたしの祖先にしかない特徴を持っていたからだ。
あたしは「古谷」という家の生まれで、訳あって古谷家との縁は断絶されている。
女衒の奈央も似た境遇で、あたし達ふたりはひっそりと、知る人しか知らない少女遊郭を営んでいた。
「…あの…杏さんの持つお屋敷って…」
鈴の鳴るような声に我に帰ると、訝しむように此方を見る瞳と目が合う。
「…屋敷なんて、そんな大袈裟なもんじゃないわよ」
素っ気なく言うと、花耶の隣にいる女衒は苦笑に顔を歪めた。
「でも、端から見たら屋敷だろ?」
悪びれなく言う姿に内心溜め息を吐く。
「…確かに、無駄に大きいことは認めるわ。でも、なんのために広く作ってあるのか、わからない訳じゃないでしょう?」
極力冷ややかに言うと、黙って頷く奈央。
奈央達の暮らす『家』は昔、枕業を営む遊郭として使われていた場処で、客と遊女が同棲出来るようにと広めに作られている。
あたしの遊郭で常連が付くようになった遊女は、夜の相手をしないという条件で客と暮らすことを確約し、身の回りのあらゆることを出来るようになるまで、その『家』で生活するのだ。
「奈央、荷物を纏めなさい。…花耶の分はあとで持って行くわ」
花耶は戸惑うように視線を彷徨わせ、奈央を見詰めた。
面白いことになった。
奈央が連れて来た少女を見た瞬間、あたしはそう確信した。
あたしは普段、奈央が『拾って』きた『売り物』に対しては本人に直接意思を聞くことがあるけど、花耶に対してはそうしなかった。
花耶は、酷く大人しい子どもで、無口で、…あたしの祖先にしかない特徴を持っていたからだ。
あたしは「古谷」という家の生まれで、訳あって古谷家との縁は断絶されている。
女衒の奈央も似た境遇で、あたし達ふたりはひっそりと、知る人しか知らない少女遊郭を営んでいた。
「…あの…杏さんの持つお屋敷って…」
鈴の鳴るような声に我に帰ると、訝しむように此方を見る瞳と目が合う。
「…屋敷なんて、そんな大袈裟なもんじゃないわよ」
素っ気なく言うと、花耶の隣にいる女衒は苦笑に顔を歪めた。
「でも、端から見たら屋敷だろ?」
悪びれなく言う姿に内心溜め息を吐く。
「…確かに、無駄に大きいことは認めるわ。でも、なんのために広く作ってあるのか、わからない訳じゃないでしょう?」
極力冷ややかに言うと、黙って頷く奈央。
奈央達の暮らす『家』は昔、枕業を営む遊郭として使われていた場処で、客と遊女が同棲出来るようにと広めに作られている。
あたしの遊郭で常連が付くようになった遊女は、夜の相手をしないという条件で客と暮らすことを確約し、身の回りのあらゆることを出来るようになるまで、その『家』で生活するのだ。
「奈央、荷物を纏めなさい。…花耶の分はあとで持って行くわ」
花耶は戸惑うように視線を彷徨わせ、奈央を見詰めた。