愛色と哀色の夜
「まず、こっちで出来ることはやってしまいましょう」
おかあさんは言うと静かに立ち上がりました。
奈央はその姿を一瞥すると何かを考えるように俯きます。
「…どうしたの…?」
「いや…少し気になることがあるんだけど…」
顎に手を当てなにかを考える奈央に、おかあさんは少しの微笑で応えました。
「大丈夫、貴方達と私は意識を保ったまま《空間》に飛べるから」
ボクの頬に触れ柔らかく囁くと、おかあさんは奈央の首筋に口付けます。すると奈央は糸が切れた人形のように倒れてしまいました。
「あら、少し意識が飛んでしまったみたい…。……まぁ奈央なら大丈夫でしょう」
そんなに困ってない風に言うと倒れた体に触れるおかあさん。
「…今、何したの…?」
目の前で起こったことを理解出来ずに尋ねると、おかあさんは悲しそうな瞳で此方を見ます。その瞳は『if』世界でのことを語っていた奈央そっくりで、奈央は本当にこの人から生まれたのだなと実感しました。
「…貴女達の首筋にあるほくろはね、『エトワールの秘術』を効率的に行えるの」
『エトワールの秘術』とは『エトワールの奇跡』のことで、過去や未来・現在に干渉出来る力なのだそうです。
ボクはよくわかりませんが、おかあさんも奈央もその力を持っていて、その力を使って此方の世界にやって来たということを先程聞きました。
「本当は麗亜にもあるのだけど…貴女は力を失くしてしまったの」
悲しそうな瞳のまま告げる姿に、ボクは何も言うことが出来ません。
「ちょっと目眩がするかもしれないけど…すぐに私も行くわね」
頬に触れ、首筋に顔を近付けるおかあさん。ボクは目を強く瞑って
(っ…)
意識はそこで途切れました。
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