愛色と哀色の夜
*****


「…取り敢えず、杏さん達を探さないと…」


目覚めたら真っ暗な闇の中にいました。夜空を広げたような暗闇はしんと静まり、ピアノ線のように張り詰めた空気が辺りを包んでいます。

突然響いた声に顔を上げると、遠くの方が薄明かりに照らされたように白く浮かんでいるのが分かりました。

(…誰かいるの…?)

白く浮かんでいる人影は何かを探すように辺りを見回すと俯いてしまいます。
不審に思って近付くと、おずおずと此方を見上げる人影に何処か違和感を覚えました。

「…だ、誰ですか…?」

凜と澄んだ、けれど怯えたような声で言われ顔を上げると今まではっきりと見えなかった人影が露になります。

(え…っ…?!)

人影の方からは此方がよく見えていないのでしょうか、畏怖や恐れの感情を瞳に湛えた姿は可憐で、その瞳の色は私の瞳とよく似ていました。

「…あの…っ…」

「…誰…?」

互いの声が重なり重い沈黙が流れます。再びピアノ線を張ったような空気になり、声を出すのも憚られました。

「…わた、わたしは、花耶。鈴風 花耶といいます」

永遠とも思える沈黙を破ったのは人影でした。澄んだ、鈴の鳴るような声は優しく鼓膜を揺らし、聞く者に安らぎを与えます。

「花耶さん…?……わたしは、風宮 麗菓といいます」

「…風宮さん…」

花耶さんは繰り返すと困った顔で此方を見上げました。困惑で揺れる瞳は、暗闇でもはっきりと分かる翡翠で見る人を魅了する力があります。

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