愛色と哀色の夜

ふたつ目の「杏と交わること」は

「そのままの意味よ」

剣を箱に仕舞いながら告げる姿は、流石遊郭の女将というか遊女というか貫禄があり、俺は引き攣った笑みを浮かべた。

「…それとも、あたしじゃ不満かしら?もっと若くてかわいい綺麗な子がよかった?」

当て付けるように言われ、内心驚く。杏はそんな俺を見透かすようにそっと耳打ちした。

「…あたしなら、あんたの意識も飛ばすことが出来るけど…?」

「〜っ」

妖艶に言われ思わず肌が粟立つ。

なんとか脱線した話を元に戻そうと考えを巡らせるとふととある疑問が脳裏を掠めた。

「な、なぁ。さっき剣の方は準備に時間がかかるって言ってたけど…なにか準備するやつでもあるのか?」

杏が仕舞ったばかりの剣の箱を見詰め、少し距離を取り尋ねる。すると杏は話を戻されたことに対してあまり動揺せずに

「断ち切るべきものが、あんたにはないし。それに、この技は4人で発動させるのよ」

半数のふたりだともし不具合が生じた時に対処出来ない、そこまで言うと杏は息を吐いた。

「まぁ、出来ないことはないから大抵の人は剣を使うわね。…っていうか、あたしと交わるなんて冗談に決まってるでしょう」

言葉の後半は意地の悪い笑顔とともに告げられ、俺は呆然とした。杏は呆然とする俺の顔をなにか面白いものでも見るように眺めると、テーブルに置かれた細長い木箱へと手を伸ばす。

「それに、下手に交わって意識なんか飛ばされたら寝覚めが悪いじゃない」

眈々となんの感情も籠っていない声で言われ、少し傷付く。そんな俺には目もくれず杏は剣と分厚い本を取り出した。

「…ほら、早くそこに立ちなさい。急がないと時間がなくなるじゃない」

鋭い切っ先を向けられ慌てて言われた場処に立つ。

剣の刀身は細く、本当にこんなもので時空を越えられるのかと不安になる。

「3つ数えて、「せーのっ」で斬るわよ」

「…おぅ」

少し間を空け答えると正眼に構える杏。その姿はとても凛々しく俺は不覚にも綺麗だ、なんて思ってしまった。















「せーのっ」






途端火花が散り、目の前が真っ白になった。


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