愛色と哀色の夜
−−ドドンッ−−
少女にりんご飴を奢って貰ったわたし達は盆踊りが行われる境内に集まった。
「あっ、父さん!!」
やぐらを見ると袴にねじり鉢巻きをした父さんが威勢のいい掛け声とともに太鼓を叩いている。
「わらひはひほおほろうふぁ?」
右手にりんご飴、左手にチョコバナナを持った少女は口をもぐもぐさせて言った。
「…姉貴、食うか喋るかどっちかにしろよ…」
半ば呆れたように告げる少年の手には少女が奢った焼きそば。しかし少年はまだ一口も食べてはいなかった。
「弟くんの言う通りだよ…ほら、そこに座って」
本殿より少し外れたスペースに移動し、3人固まって座る。幸せそうにりんご飴を食べる姿を見ていたら、わたしも焼きそばを食べたくなってしまった。
「あ、じゃあ俺の食べてどうぞ。……俺、自分で買って来るんで」
そう言って焼きそばを此方に渡すと颯爽と駆けて行く少年。その背中を見送ったわたしは正面でりんご飴を頬張る少女に視線を向けた。
「……出来た弟くん…」
「…」
ヘッドバンキングをしてるように激しく首を振る少女は口の中のものを全て飲み込んで言った。
「いい奴でしょ?奈央、っていうんだ」
自慢気に語るその姿はまさにお姉ちゃんで
「……カス付いてる」
指で掬ってりんご飴の欠片を食べた。
−−ヒュー、パーン−−
「あ、花火だ!」
やぐらの上に咲いた大きな花を合図に、至るところで花火の上がる音が響く。
わたし達ふたりはその大輪に暫し見惚れて互いに口を開かなかった。
「……ねぇ」
夏の夜空に、鮮やかな花が浮かぶ。
「…来年もこうして、また一緒に花火を見ようね」
父さんの叩く太鼓はいよいよ激しさを増し、祭が最高潮に達したことを告げる。
わたしは少女の肩に頭を乗せ、小さく頷いた。
「勿論。…来年も、再来年も、ずーっと、一緒に花火を見よう」
「………。…うん」
少女は頷き、ゆっくりと此方を見遣る。
「…絶対だよ、必ずね」
告げた声は花火の音に吸われ消える。
「約束だよ」
ふと視線を上げると、首筋にある星形のほくろが目に入った。
「大好きだよ。………麗亜」
鮮やか花と祭囃子がわたし達ふたりを包み込んだ。
-The End-