青いネクタイ
日曜日が来た。
朝早くにほのかからのメールで起こされた。メールには「14時くらいに車で迎えに行く」とあった。
時間は7時を少し過ぎたところ。カーテンの隙間から日の光が洩れていた。
受信メールの画面を待受画面に戻すと足元に携帯を投げた。二度寝を決め込んでもう一度、布団に潜る。だが目が冴えてしまったのか眠りにつけない。しょうがないからあきらめて一階に降りていく。
日曜日なのに二人は出掛けてしまったみたいで誰もいない。レンジにパンを1枚放り込み、フライパンでスクランブレックをちゃちゃっと作ってお皿に盛った。横に置いてある鍋に味噌汁が入っているのを見付けて、それもお椀によそった。
リビングでテレビを点けると、スクランブルエッグをトーストに載せてかぶり付いた。朝のニュースが流れていてなんとなくそのチャンネルを見続けていた。
天気の話題の後、都内の小学校の卒業式の映像が流れていた。
生徒のピアノ伴奏に合わせて歌う子どもたち。校長先生に呼ばれて大声で返事をしてから壇上に上がる生徒。
みんなまっすぐに前を見て座っている。
10年前のわたしはあんなにきらきらしていたんだ…
そう思ってしまったら途端に悲しくなってきて、チャンネルをアニメに変えた。
カラフルな髪の色をした女の子たちが学校の教室でお喋りしている。
このシリーズまだ、やってるんだ…
知っているキャラクターではなかったが、かすかに見覚えのあるアニメキャラクターたちの会話に耳を澄ます。
明るいムードメーカーの主人公に、お節介で快活な親友、生徒会長で学年一の秀才、学園一の美少女。
こうゆうのが好きだったのよね…
ふと自分が好きだったものが理解できなくなった寂しさを感じた。
それは成長だろうか。
アニメの中の主人公たちは明るく前向きで、なにかにつまづいても乗り越える強さを持っている。
わたしは恵まれていて満たされているはずだった。
でもあの頃のキラキラした毎日は戻ってこない。
テレビの中でアニメの中のキャラクターたちが笑っている。純粋にキャラクターたちに憧れられたあの頃の方が幸せだったのか。
こんなの虚構の中だけと、冷静に見ている「今」が一番幸せだと、満たされていると感じられないのはなんなんだろう。
アニメはクラスメイトから誤解を受けた友人を助けようと主人公が廊下を走るシーンでCMに入った。
さっき見ていたニャースにチャンネルを変えた。そのままソファで眠り込んだ。
「君子ちゃん」
肩を揺すられて目を覚ます。
「いま何時ですか」
当たりを見回すとテレビの上の時計が11時を指している。
「11時を少し過ぎたところかな」
父が優しい声で答える。
「今日は小学校に行く日じゃなかったけ?」
「あ、ああ…ほのかが迎えに来てくれるんです」
寝ぼけて答えるとテーブルの上の食べかけのお皿やお椀が目に入って気まずくなる。
「ごはん食べたら寝ちゃったみたいで…」
急いでテーブルの上を片付ける。
「昨日は夜遅かったから寝不足なんじゃない?」
父からそう言われると申し訳なくなってくる。気を使われているような気がしてしまうからだ。
「よく寝たはずなんですけどね…」
テーブルを拭いていると携帯が光っているのが見えた。多分、直太かほのかからメールだろう。
「そういえばお母さんは?」
「僕が帰ってきたときはいなかったよ」
「そうですか…」
てっきり二人で出掛けていると思っていたので拍子抜けだった。
「12時半くらいに、また出掛けるから、小学校まで送ってってあげようか?」
父からの提案だった。ほのかの家の方が小学校に近いので迎えに来てもらうのは悪いと思っていた。あと1時間で支度すればいい。
「いいんですか?すぐ支度します!」
お風呂に入って髪を洗って軽く化粧をする。服は昨日から着たいものをなんとなく考えていたのですぐに、着替えられた。
「君ちゃーん、支度できた?」
外で車を洗っていた父が玄関から2階に向かって声を掛ける。
「はーい、行けます!」
姿見の前で全身をチェックしたあと、ベッドの上に置いたいつものバックを掴んだ。
買ったばかりの春色のコートで気分を上げて、わたしは部屋を出た。
朝早くにほのかからのメールで起こされた。メールには「14時くらいに車で迎えに行く」とあった。
時間は7時を少し過ぎたところ。カーテンの隙間から日の光が洩れていた。
受信メールの画面を待受画面に戻すと足元に携帯を投げた。二度寝を決め込んでもう一度、布団に潜る。だが目が冴えてしまったのか眠りにつけない。しょうがないからあきらめて一階に降りていく。
日曜日なのに二人は出掛けてしまったみたいで誰もいない。レンジにパンを1枚放り込み、フライパンでスクランブレックをちゃちゃっと作ってお皿に盛った。横に置いてある鍋に味噌汁が入っているのを見付けて、それもお椀によそった。
リビングでテレビを点けると、スクランブルエッグをトーストに載せてかぶり付いた。朝のニュースが流れていてなんとなくそのチャンネルを見続けていた。
天気の話題の後、都内の小学校の卒業式の映像が流れていた。
生徒のピアノ伴奏に合わせて歌う子どもたち。校長先生に呼ばれて大声で返事をしてから壇上に上がる生徒。
みんなまっすぐに前を見て座っている。
10年前のわたしはあんなにきらきらしていたんだ…
そう思ってしまったら途端に悲しくなってきて、チャンネルをアニメに変えた。
カラフルな髪の色をした女の子たちが学校の教室でお喋りしている。
このシリーズまだ、やってるんだ…
知っているキャラクターではなかったが、かすかに見覚えのあるアニメキャラクターたちの会話に耳を澄ます。
明るいムードメーカーの主人公に、お節介で快活な親友、生徒会長で学年一の秀才、学園一の美少女。
こうゆうのが好きだったのよね…
ふと自分が好きだったものが理解できなくなった寂しさを感じた。
それは成長だろうか。
アニメの中の主人公たちは明るく前向きで、なにかにつまづいても乗り越える強さを持っている。
わたしは恵まれていて満たされているはずだった。
でもあの頃のキラキラした毎日は戻ってこない。
テレビの中でアニメの中のキャラクターたちが笑っている。純粋にキャラクターたちに憧れられたあの頃の方が幸せだったのか。
こんなの虚構の中だけと、冷静に見ている「今」が一番幸せだと、満たされていると感じられないのはなんなんだろう。
アニメはクラスメイトから誤解を受けた友人を助けようと主人公が廊下を走るシーンでCMに入った。
さっき見ていたニャースにチャンネルを変えた。そのままソファで眠り込んだ。
「君子ちゃん」
肩を揺すられて目を覚ます。
「いま何時ですか」
当たりを見回すとテレビの上の時計が11時を指している。
「11時を少し過ぎたところかな」
父が優しい声で答える。
「今日は小学校に行く日じゃなかったけ?」
「あ、ああ…ほのかが迎えに来てくれるんです」
寝ぼけて答えるとテーブルの上の食べかけのお皿やお椀が目に入って気まずくなる。
「ごはん食べたら寝ちゃったみたいで…」
急いでテーブルの上を片付ける。
「昨日は夜遅かったから寝不足なんじゃない?」
父からそう言われると申し訳なくなってくる。気を使われているような気がしてしまうからだ。
「よく寝たはずなんですけどね…」
テーブルを拭いていると携帯が光っているのが見えた。多分、直太かほのかからメールだろう。
「そういえばお母さんは?」
「僕が帰ってきたときはいなかったよ」
「そうですか…」
てっきり二人で出掛けていると思っていたので拍子抜けだった。
「12時半くらいに、また出掛けるから、小学校まで送ってってあげようか?」
父からの提案だった。ほのかの家の方が小学校に近いので迎えに来てもらうのは悪いと思っていた。あと1時間で支度すればいい。
「いいんですか?すぐ支度します!」
お風呂に入って髪を洗って軽く化粧をする。服は昨日から着たいものをなんとなく考えていたのですぐに、着替えられた。
「君ちゃーん、支度できた?」
外で車を洗っていた父が玄関から2階に向かって声を掛ける。
「はーい、行けます!」
姿見の前で全身をチェックしたあと、ベッドの上に置いたいつものバックを掴んだ。
買ったばかりの春色のコートで気分を上げて、わたしは部屋を出た。