捕らわれ姫




「あ、りがとう、ございます…」


戸惑いながらも伸ばされた手をそっと掴むと、先生も優しく握り返してきた。

瞬間、その大きな手に、さっきまで忘れていた出来事を思い出した。



「―――っ」


先生の、香り。


息づかい。





「姫野さん。 姫野、さくらさん」



脚立を下りる足が止まった。


先生は私を見上げたまま、名前を呼ぶ。



艶のある、大人の男の人の声で。

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