薇姫/獣帝
「紘入るって‼」
静かで穏やかな空気が流れていたのに、尚のその一声で崩れた。
『五月蝿い』
「いやいやいや、まじまじまじ」
何喋ってんの?
「…………琉稀の傍居たいから」
紘をみれば悲し気な表情で微笑んでいた。
私はソレに心臓を掴まれる、何て痛みじゃなく、ナイフで刺されたかの様に苦しくなった。
『……うん。』
私も微笑んでおいた。
何を言えばいいのか。
そんな事がわかる程私は出来た人間じゃないから。
私は背凭れにそっと背中を預けて尚を見た。
きっと、尚が何らかのやり方で引きずりこもうとしたんだろうけど。
『……………尚』
「ん?」
尚は私を見て目を細めて笑いながら首を傾げた。
『ーーーー……ありがとう』
尚は目を見開いたけどまた笑った。
皆も笑っていたし、紘も……
笑っていた。