薇姫/獣帝
ガンッ
壁に拳を思い切りぶつける。
生々しい音と共に走る鋭い痛みを感じずに只々前を睨みつけた。
表面上だけ固いコンクリートは砕け散り、床に無様に転がる。
手の甲と指に刺さった小さな欠片はどんどん赤に染まる。
感情の無い目で見据える、少女。
「琉稀?あっ、居た!
もう、探したんだよ?!」
ガラリと乾いた音をたてて開く扉の前に男の集団。
少女の名前を呼びながらホッとした表情を見せるも、
すぐに歩み始めていた足を止めた。
少女から漂う恐ろしい殺気が少年達の足を止め、心の侵入を防いだ。
『……』
少女は扉をまっすぐに見て歩き始めた。
荒々しい歩き方は、まるで迷子で焦った子猫の様だった。
「琉稀……」
誰かが呼んだにも関わらずまっすぐ前を見ているのに、少年達が眼中にないかの様に扉を通り、静かな殺気を残し去った。
ただ1人、蒼い目の少年は少女の残していったコンクリートの欠片と血の水溜りを見ていた。