薇姫/獣帝
何も言えず目を見開いて小さくて細い背中を見送る事しか出来なかった。
拳を握りしめながら唇を強く噛み締めた。
……俺等は何の為に居ると思ってんだよ。
お前の、仕事の為にいるんじゃねぇ。
お前等の、幸せの為にここで生きてんだ。
「……っチクショーーーー…」
視界が滲んだかと思えば小さな雫が廊下に散らばっていた。
「……そうだね、琉稀は頑張りすぎだね」
突然の声に驚いて後ろを向いた。
「はろぉ。
久しぶりに帰ってきたら何か殺気が立ち込めてるんだけど~?」
怜央だった。
唯一、何かと琉稀に1番甘えをやらないのはこいつなのかもしれない。
「これ、琉稀の殺気だよね」
悲しそうに空気を掴む真似をしている。
「……あぁ…」
「ふー、世話が焼けるねぇ。
てか、棗涙拭った方がいいよ?」
怜央に目元を指差されながら言われてハッとした。
「っ涙じゃねぇよ‼」
「はいはーい」
全く相手にしてないかの様に俺に言ってすぐに空気を入れ替えた。
俺でも息が詰まる様な怜央の気配に全身が震えそうだった。
「棗、お前も来い。
んで、盗み聞きしてる奴等もな」
「んだよバレてたのかよ…」
そう言って隣の部屋から出てきた咲夜、暁月、淳、日向。
「ぉ、前等……」
「いやいやいや、棗が泣いてるとこなんて見てないよ?」
……
「殺す」
「やぁーーーー‼」
「後にしろ。
今は行くぞ」
怜央の言葉に全員の雰囲気がガラリと変わった。
横目で俺等を見た怜央が襖を開けた。