薇姫/獣帝
「お利口さん」
佐野は私に指でおりてこい、と指し示した。
階段を一歩ずつおりる。
その間に面子の止める声がやまなかった。
……ありがとう。
でも……
これしか、助けられる方法は無いんだよ…
腕を強い力で掴まれた。
振り向かなくても、誰かわかる。
……それ程、心酔していたのだろうか?
「琉稀……」
來哉。
「早くこい」
苛ついた様な不機嫌な声を出す佐野を見て考えが変わる前に行かないと、と思った。
『……ごめん』
手を振り払って早歩きで佐野の元へと近寄った。
「ふふ、これだから君は好きだよ」
佐野は私の髪を触って笑う。
頬に手を添えられ、ぐっと上を向かされてキスをされる。
抵抗しても、獣帝と藍城をネタに脅されるだけなんだ。
耐えろ。
拳を握りしめて必死に痛みに意識を逸らして逃げた。
卑猥な水音が倉庫に虚しく、苛つく程響いた。
佐野はニヤリと笑って私を見た。
その目で、見るな。
その手で、触れるな。
その声で、呼ぶな。
……その瞳に、私を映すな。
佐野は狂った様な笑みを浮かべて心底楽しそうに口を開いた。
「琉稀チャン、懸命だね。
でも………
全てが上手くいくもんじゃないんだよ」
その言葉に目を見開いてハッとした。
佐野に集中しすぎていて外からの音に神経を巡らせていなかった。
あぁ、また…………
目の前が赤く、暗く淀んだ。