薇姫/獣帝
「前にもあったね~…」
佐野は楽しそうに頬を歪めて嘲笑うかの様に私を見下す。
「そこの紘くんなら、わかるよね」
佐野の指差した方向を焦りながら見ると、目を見開いて全身を震わせている紘がいた。
『っ紘‼』
「ぉっと」
紘に駆け寄ろうとした体を抱き寄せられ近づけない。
ギロリと睨みつけて八重歯を剥き出しに叫んだ。
『離せっ‼』
「どうなるかわかって言ってる?」
『離せぇ‼』
「藍城だからって、僕の組員も負けないよ?」
話が噛み合ってないのに話を続ける佐野に殺意が芽生える。
『藍城が佐野何かに負けるか‼
私は負ける事を恐れているんじゃないっ‼
皆が傷ついて、お前の卑怯な手に陥れられるのを見たくないんだっ‼』
そう……
楼稀の時だって、負けないと確信してた。
だけど、楼稀はあぁなった。
こいつの、卑怯な手で。
目が極限まで熱くなって何かが頬を滑り落ちた。
『お前なんか……っーーーーー
武器さえ無ければ何もできないくせに‼』
フッと無表情になり私を抱き止める腕を片方だけ離して
ガっ
『っは……』
「黙っててよ。
感情に流されるまで落ちぶれたの?」
佐野がそう言った瞬間、横目に閉まっていた倉庫のシャッターが吹っ飛んだ。
それに構わず、痛む腹を片手で押さえて佐野を睨みつけていた。
「なーんか派手にやってくれてんね」