薇姫/獣帝
『………お前にわかるか?
私が藍城に自ら入った理由』
佐野は目を細めて「知るかよ」と呟いた。
『………藍城を無くす為だった』
その言葉に佐野は目を見開いて体を揺らした。
『………楼稀が、人が傷つく為に用意された様な台本通りの争いを創り上げる組の抗争が大嫌いだった。
それを、無くす為に嫌でしょうがない仕事をこなしてきた。
お前に、私の気持ちが解っていたのか?』
人の気持ちなんて、本人にしか解らない。
人の気持ちなんて、口から出たものが全てでは無い。
『………、お前にわかったのかよ?
私の、楼稀の、藍城の、組の奴等の心情が…………
私は知らなかった………
組の奴等の心の痛みも、お前の心も。
お前に、私の気持ちが解っていたなら、素直にお前に殺されてやるよ。』
「………っ」
『でも、お前…………
本当に解っていたのかよ…………‼
私の気持ちも、他人の気持ちも、
自分の気持ちも‼』
私の大きな声は静かすぎて煩い程の緊張感の波にのって響いた。
「っ知ってるよ………
親父が死んだ理由があった事だって、知ってたよ‼
だけど、ソレを受け止めるだけのお前の様な心が出来上がってる様な奴には俺はなれねぇんだよ‼」
佐野の涙が私の目に入って視界が歪んだ。