薇姫/獣帝
『っ怜央………っ…‼』
思わず呼んだ奴が振り向いた顔を見て、驚きながら眉を下げた。
『っ当たってごめん……』
「……ふふ、あんなの俺からしたら何も感じなかったけどね~」
微笑む怜央の瞳が、小さく輪郭を無くしていったのを見て目を見開いた。
目の奥が熱くなる様な感覚をぐっと抑えて笑い返した。
『ごめん、
ありがと』
ずっと言いたくて言えなかった言葉というのだろうか?
そんなありきたりで笑える様な言葉を、ただ言いたくなった。
怜央はそのまま前を向いて手をヒラヒラと振った。
それを見て何となく悲しい気持ちになったけど、嬉しくも思えた。
『ーーーー話、しようか』
私がそう言うと、獣帝の皆は私に小さく笑いかけた。
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「たく……やせ我慢しやがって」
「……してねぇよ」
棗と怜央は暁月達と少し離れた後ろで言葉を交わしていた。
「じゃぁ、何で俺にはお前の目の輪郭がボヤけて見えんのかなー」
「目ぇ悪くなったんじゃない?」
「シネ、お前なんか心配してやんねー」
「される様なことが無い」
怜央の語尾が不意に掠れて、震えた。
その声に棗は歩く足を止めて少し前を歩いていく怜央の背中を見つめた。
「……どこが、心配されるような状態じゃねぇんだよ」
ポツリと呟いた棗のことばは闇に消えて、怜央の背中は闇に溶け込んだ。
……涙と共に。
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