薇姫/獣帝






ガチャンと冷たい音をたてて閉まる扉に目を向けながら來哉に問いかけた。




『何?』





「……」



來哉は黙ってベッドに腰掛けて手をついた。





『…………』



「…………」





沈黙の間が長く続く中、來哉は顔を上げようとしなかった。






暫く沈黙が続いたものの、私が壁に凭れかかった時、來哉が顔を上げた。






「……琉稀。




楼稀に会った」













その言葉に心臓を鷲掴みされた様に強く鼓動が主張した。







『……、何…言ってんだ………』









楼稀は、死んだ。






言ったはずだろ?








疑わしい目で蒼い瞳を見続ける。






だが、來哉は一歩も引かず純粋な瞳で私を見据えた。






「……夢の中みたいな、とこ。






あとは、昔にあってた」









來哉の言葉に目を見張る。




夢の中?昔?




馬鹿馬鹿しい、そんな考えは頭に浮かばなかった。




ただ、楼稀と会った“昔”が気になった。







來哉は深く息を吸って吐いた。





表情を歪めて口を無理矢理開ける。





「……昔、荒れてた時期が俺にもあった。





まだ獣帝に入ってない、少しやり過ぎてる男だけだった時。






色々暴れすぎたんだろうな…





その土地を締めてた族が俺を集団で襲ってきてさ……





もちろん戦ったけど、勝てるワケもねぇ。




鉄パイプで殴られたりして、血があたりに飛び散ってんの見てフラフラする頭で考えてたんだ。







あぁ、俺もうダメかな…って……





意識手放そうと力抜いた瞬間、バキッて鈍い音が耳に届いた。






何かよくわかんねぇけど、見なきゃって思って無理矢理腫れあがった瞼を上げた。




そしたら、1人の男が次々に族の奴等を倒してくんだよ。





その男の戦い方が綺麗で、見とれてた。







いつの間にか全員倒してた男が俺を振り返ったんだよ。




腫れた瞼を目一杯開いて見たよ。




“うわぁ、すっごいやられようじゃん”





男の顔は顔までもが綺麗で、ニコニコ笑っていた。





“っはが……"




“おぅおぅ、無理すんな。”





そいつは髪を風に揺らして俺に近づいて笑った。




“無茶すんなぁ、お前”




男は俺の切れた額に白いハンカチ当てて溜息吐いた。



“うるせぇ…ほっとけ”




そっぽを向くと、ハンカチが落ちてそれを凝視した。





“彼女の何じゃねぇの……”



男は苦笑しながらハンカチをまた俺に当てた。



“ちげぇ、彼女より大切な奴のモノ”




男は俺の手をとってハンカチを自分で押さえさせるような体制にして立ち上がった。




“そろそろ皆起きてくるからなー。



行かねぇといけねぇんだゎ、悪りぃな”





男は俺を見て苦笑した後、俺を指差して言った。





“あ、そのハンカチ俺の〝大切な奴〟に返しとけよ?”





男はそのまま暗闇に向かって歩いてった。








“どーやってだよ……‼




お前の名前もお前の彼女より大切な奴何て知んねぇよ‼”





力を振り絞って大声を出せば男は手を振りながら



“いつか、お前とアイツは出会うさ。







ーーーー必ず”










そう言ってどこかに行った男と入れ替わりにきたのが……







獣帝の奴等だった。」














…………




< 392 / 430 >

この作品をシェア

pagetop