薇姫/獣帝
『……それって…』
「……」
來哉は黙ってクローゼットに近寄り、一つの小さな引き出しを開けた。
そこには、昔あの子に貸した……
『蝶のハンカチ……』
お気に入りのハンカチを楼稀に貸して、返ってこなくて怒ると「いつか返ってくるから」と自身あり気に言ったのを殴った覚えがある。
「……あいつは予言者かよ」
來哉は苦笑してハンカチを持って私に近づいた。
私の手にハンカチをのせて私を近距離で見据えた。
「……夢は、意識がまだなかった頃。
あいつが暗闇の中で俺を見上げてた。
目を細めて笑ってた……
“やぁ、やっぱり会ったね”
楽し気に俺を見る奴に悔しさを覚えたし、不思議に思えた。
“お前、結局誰なんだよ。
ハンカチも返せてねぇ”
不満に思って睨みつけながら言うと奴はふふっと笑った。
“そのうち解るよ。
……でも、ヒント。
君の想い人。
……察しはついた?”
楼稀に笑みを向けられ言葉に詰まる。
……は…
“お前……”
“……ちゃんと幸せにしてあげてよ。
幸せに出来なかったら呪い殺すから”
ニタリと口角をあげて笑った後、奴は後ろを向いて暗闇を歩き出した。
“待てよ‼お前……っ”
“信じてるよ。
君なら幸せに出来るーーーー”
“ーーーー琉稀を。”
捨て台詞にしてはカッコのつかないのを吐いて暗闇へと溶け込んだ。
俺は、そんな時に目が覚めた……
夢であって夢じゃないように思えた…」