薇姫/獣帝
「妊娠中毒症……?」
「はい…大変申し上げにくいですが、そうです…」
お医者さんは苦々しく言って俯いた。
「………産めないんですか」
晃さんが珍しく質問すると、お医者さんは目を見張ったものの、すぐ暗い表情になった。
「産む事は出来ます。
ただ……
母子ともに出産時に関わらず危険な状態になる事もあり得ます……」
「……」
「……ヒッ…うっ………」
思わず出た嗚咽に晃さんが素早く反応して大丈夫だ、と私の背中を摩ってくれた。
だけど涙は止まらなくて……
悲しくて絶望を味わった気分だった。
帰りは無言だった。
何かを考えているような晃さんの数歩後ろを歩きながら不安を覚える。
こんな女、嫌なのかな…
悲しくてまた涙が出そうだったけど、これ以上迷惑かけたくなくってぐっと堪えた。
家に着いて晃さんは私をベッドに座らせた。
「………麻実」
「っ………」
名前を呼ばれてびくりとなる体が情けなくてしょうがない。
「………産みたく、なくなったか?」
晃さんの不安気な声に目を見開いて上を見上げた。
切な気な表情をして壁に凭れかかって前を見据えている晃さん。
儚くて、今にも消えてしまいそうだった。
「っ産みたい………ごめんなさいっ
産みたいです……‼」
あぁ、前にもこんなこと言い合ってた気がする。
何で……この人は…
私を夢中にさせてしまうのだろう。
晃さんは不意にふわりと私を抱きしめた。
「……悪りぃ、俺もお前に産ませたくてたまらねぇ」
その言葉に目を見開いた。
「お前と俺では反対を押し切った結婚だ。
何か……形で残るものもあまりない。
物じゃないけど………
確かな、お前と俺で繋がってた確かな絆が目に見えるように残っててほしい…」
晃さんの言葉にまた涙が溢れた。
この人に何回泣かせられればいいんだろう?
大好きすぎて、愛おしすぎて
狂いそうになる…………
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予定通り、私は出産予定日前に入院して出産準備を整えていた。
ーーーー運命の時は、突然だった。