校庭の真ん中で【超短編】
直太からのメールを開く。
『今日は俺のことはほっといて楽しんできなさい』

文章の最後にヘンテコなキャラクターがくにゃくにゃと動いて笑っている。

直太は時々、変な絵文字を送ってきてわたしをなごませてくれる。直太の優しさに笑顔が零れて顔を上げると、視線の先に一人の男の人が立っていた。

よく見ると立ったりしゃがんだり、校庭の石を拾っている。

その瞬間、魔法が溶けたみたいにわたしの心は「あのころ」に支配された。

「先生…?」

「あのころ」に戻った私は「あのころ」と同じように名前を呼ぶ。

振り向いたその人の目尻には、皺が何本も刻まれ、白髪が交ざっていた。

「向井……さん?」

あ、わかってくれた…

それだけで涙が溢れ、出た。

思わず駆け寄って抱きつきたい衝動に駆られて思い止まった。

「元気に…していましたか…?」

控え目な言葉とその声に涙は止まらない。

泣いているわたしに先生は「そんなに泣かないの…」と子どもをあやすように語りかけた。そして、軽く2、3回頭を撫でた。

「今までよく頑張ってきましたね…向井さんの話は、時々聞いていたんですよ…」

先生に触れられたとき、わたしは理解した。

わたしが欲しいのはこの手だ。
この手で触れてほしいのだ。
わたしにはそれしか必要いらない。

そしてこの右手で、左手で、先生の手に腕に肩に顔に頭に背中に足に触れることができたら、どんなに幸せだろう。
わたしはどんな風になってしまうんだろうと思った。
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