校庭の真ん中で【超短編】
1
直太からのメールを開く。
『今日は俺のことはほっといて楽しんできなさい』
文章の最後にヘンテコなキャラクターがくにゃくにゃと動いて笑っている。
直太は時々、変な絵文字を送ってきてわたしをなごませてくれる。直太の優しさに笑顔が零れて顔を上げると、視線の先に一人の男の人が立っていた。
よく見ると立ったりしゃがんだり、校庭の石を拾っている。
その瞬間、魔法が溶けたみたいにわたしの心は「あのころ」に支配された。
「先生…?」
「あのころ」に戻った私は「あのころ」と同じように名前を呼ぶ。
振り向いたその人の目尻には、皺が何本も刻まれ、白髪が交ざっていた。
「向井……さん?」
あ、わかってくれた…
それだけで涙が溢れ、出た。
思わず駆け寄って抱きつきたい衝動に駆られて思い止まった。
「元気に…していましたか…?」
控え目な言葉とその声に涙は止まらない。
泣いているわたしに先生は「そんなに泣かないの…」と子どもをあやすように語りかけた。そして、軽く2、3回頭を撫でた。
「今までよく頑張ってきましたね…向井さんの話は、時々聞いていたんですよ…」
先生に触れられたとき、わたしは理解した。
わたしが欲しいのはこの手だ。
この手で触れてほしいのだ。
わたしにはそれしか必要いらない。
そしてこの右手で、左手で、先生の手に腕に肩に顔に頭に背中に足に触れることができたら、どんなに幸せだろう。
わたしはどんな風になってしまうんだろうと思った。
『今日は俺のことはほっといて楽しんできなさい』
文章の最後にヘンテコなキャラクターがくにゃくにゃと動いて笑っている。
直太は時々、変な絵文字を送ってきてわたしをなごませてくれる。直太の優しさに笑顔が零れて顔を上げると、視線の先に一人の男の人が立っていた。
よく見ると立ったりしゃがんだり、校庭の石を拾っている。
その瞬間、魔法が溶けたみたいにわたしの心は「あのころ」に支配された。
「先生…?」
「あのころ」に戻った私は「あのころ」と同じように名前を呼ぶ。
振り向いたその人の目尻には、皺が何本も刻まれ、白髪が交ざっていた。
「向井……さん?」
あ、わかってくれた…
それだけで涙が溢れ、出た。
思わず駆け寄って抱きつきたい衝動に駆られて思い止まった。
「元気に…していましたか…?」
控え目な言葉とその声に涙は止まらない。
泣いているわたしに先生は「そんなに泣かないの…」と子どもをあやすように語りかけた。そして、軽く2、3回頭を撫でた。
「今までよく頑張ってきましたね…向井さんの話は、時々聞いていたんですよ…」
先生に触れられたとき、わたしは理解した。
わたしが欲しいのはこの手だ。
この手で触れてほしいのだ。
わたしにはそれしか必要いらない。
そしてこの右手で、左手で、先生の手に腕に肩に顔に頭に背中に足に触れることができたら、どんなに幸せだろう。
わたしはどんな風になってしまうんだろうと思った。