注文の出来ない喫茶店【短編】
「お待たせしました」


と言って若者に珈琲の入ったカップを差し出す
若者は先程までの騒々しさとは違い、ゆっくりとした動作でカップに口をつけた








「まっず
おっさん、何これ?」



若者は顔を歪めながら聞いてきた



「何って、珈琲だ。ミルクには見えないだろ?」


私は素っ気なく答える
行員時代にも、こういう客はいたもんだ
やたらと難癖つけてくる客
恐らく、この若者も風体からして
ろくな人間じゃないんだろう
現にこうして、珈琲代を
踏み倒そうとしているではないか



昨日のサラリーマンといい
今朝の女といい
少し良いことをしてやった気になって
私の運気も少しは上がるかと思ったが
お人好しもいいとこだ



結局
店を閉めようとした日に
とんだ災難にあおうとしている
つくづく、この店は運に見放されたようだ



とにかく、
金だけはせびられないように
しなければ








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