たった一つのお願い
いつものように顔も見ないまま、時間が無いからとコーヒーだけ啜り家を出た。
生まれたばかりの娘の事は妻に任せきり。
一人家族が増えた分、生活は前より厳しくなったが、仕事は運良く気流に乗っていて順調だった。
何もかもが上手くいっている。
その時の私は何でも思い通りにいくような感じさえした。
「――だけどそれは只の思い過ごしでした」
帰ってみると、娘が泣き喚く声。
真っ暗な部屋。
恐る恐る奥へ進んで行くと、妻は冷たくなって娘の傍で倒れていた。
「慌てて救急車を呼びましたが、心臓は止まっていてもう手遅れでした――…」