たった一つのお願い
そう言えば祐司も俺の事を“理央”と呼ぶ。
嫌いで嫌で仕方なかった名前。
止めろと言ってもアイツは俺の言う事をいつも聞き流していた。
そして注意する事を俺は諦めた。
だが、いつからだろうか?
理央、と祐司に名前を呼ばれる事に嫌悪しなくなったのは。
俺が奴を祐司、と名前を呼ぶようになったのは。
「春陽に見惚れてるだけだ。コレで質問の答えは満足か?」
「理央のバカ!」
春陽には、一瞬で名前を呼ばせたのにな。
だが、たまには思い出話も悪くはないかもしれない。
俺の持論は、“大切なのは今”だ。
昔の女を使って比較するのは次から次へと溢れてくる春陽への想いに気づくためだ。そうしなければ自分の思考がまとまらず、追いつかない。
だが、たまには違った意味で過去に立ち返って祐司との腐れ縁とでも言うような関係を思い出してみるのも悪くない。
「そう言えば祐司。お前は学生時代の思い出で何を覚えている?」
春陽が居なかったら、こんな機会絶対なかった。