たった一つのお願い
「そうか」
ポツリと祐司が言った。
「理央、それが未来を受け止めるって事だ」
俺は赤ん坊ではない。
そんな教師面みたいな言い方は大変癪に触る。
だが。
「動揺して当たり前。恐くて当たり前。
大切な人なら尚更だよな」
祐司の笑みはいつもみたくふざけている感じではなく、俺を茶化す気でもない笑み。
だから俺は反論出来なくて。
仕事へさっさと戻れと毒を吐く事も出来ない。
「………そうか……」
こんな言葉しか返せなかった。
未来を受け止める、とはこんなにも重くて残酷な…けれどそれはそんな事ばかりではない。
何故、彼が俺にその言葉で願ったのか分かったから。
少し思考がひらけた俺はポケットから出ていた婚姻届をきちんと奥へしまった。