たった一つのお願い


「三神先生と春ちゃんっていつもこんな感じなんですねー」




初めて目撃しました、と彼女は言って笑った。




「ハハ…おかげ様で楽しくやらせてもらってます」




俺が笑いながらそう答えると宮ちゃんは春陽を見て笑う。




「春ちゃん、先生の笑顔見ただけでお顔が真っ赤よ」



「い、言わないで!」




宮ちゃん居なかったら確実にここでキスしてる。…今しても構わないが、また否定されそうだからな。抱きついただけであの仕打ちだ。キスなんてしたら何されるか分からない。無視とかされてしまいそうだ。
それは困る。




「理央の笑った顔、好きだから…仕方ないよ」



「そうですねぇー
確かに先生の笑顔は魅力ありますものね」



「…………」




我慢だ。
耐えろ。


さすがに手術前に仲違いはゴメンだ。

だから、耐えろ。

春陽の無自覚発言はいつもの事じゃないか。
慣れてるはずだろう。



結局俺は理性との葛藤を放棄し、黙って目を閉じて円周率をひたすら考える事にした。
…理性と闘ったら負けそうだったから。
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