たった一つのお願い
「……理央」
「ん?」
「ありがとう…」
そう言って彼女は先ほどより深く布団をかぶってしまった。
しかし、またひょっこりと顔を出して
「おやすみっ」
そしてまた布団の中へ。
忙しい奴だ。
「おやすみ、春陽」
だけどそんな様子を見るだけで口角が上がる俺って案外ひねくれ者ではなく単純なのかもしれない。
布団にもぐっても、手だけはきちんと俺と重なっている事が嬉しくて。
また一つ、クスリと笑みを零してしまう。
ずっと永遠にこの時間が続けば良いのに――…
そんな、叶いもしないお願いをしながら星を眺めた。
今夜の月は綺麗だから。
祈らずにはいられなかったと頭の中で言い訳をしながら。