たった一つのお願い
「先生、今日は娘を宜しくお願いします」
春陽のお父さんが頭を下げ、礼儀正しくお願いをした。
「任せて下さい」
祐司は頼もしくしっかりした声で答える。
俺は祐司に視線だけ送る。
もうお願いはしない。
俺はあの時だけで充分だ。
「春ちゃん、頑張ろうね。
――主にヘタレなどこかの彼氏さんのために」
「おい」
失礼極まりない。
だが、
「ふふふっ…やっぱり先生達は仲良いねー」
彼女がこうして笑ってくれるから。
不安なはずの彼女の気が少しでも晴れるなら。
「ヘタレだろうが彼氏だから良いんだよ」
――何度でも馬鹿でもヘタレにでもになってやる。