たった一つのお願い
第五章
切愛1
「こら春陽。寝てろと言っただろう」
手術の日から二週間が過ぎた。
春陽の回復は順調であまり後遺症もなく、今は起き上がれる程だ。しかし、手にあまり力が入らないので重い物は勿論、折り鶴を折る事さえ倍の時間はかかるようになってしまった。
それなのに、だ。
「ケンタ君がね、もうすぐで手術だから。お手紙書いてるの」
だからまだ寝ない、と言う。
震える手で一生懸命手紙を書く姿に俺は何も言えずにいる。
その手紙は後で宮ちゃんに渡してもらうよう頼むそうだ。
「…………」
だがこうして俺が昼休みに会いに来ているのに…と面白くない気持ちはある。
そんな事を言えば春陽に心が狭いと印象を悪くされそうなので決して言わないが。
俺は暇を持て余し、彼女の傍の椅子に腰掛けると、悪いとは思いながらも手紙の内容を拝見する事にした。