たった一つのお願い
手紙は今までに何度か貰った事がある。
その内容はいつも俺への一途な想いを告げるものだった。
だけど面と向かって誰かも分からない奴と関係など持ちたくなかった俺は手紙を読むと破棄し、相手が名乗り出るか何もなければそれまでだった。
つくづく最低だとは自覚していたが、他人に興味の無かったあの頃はそんな気持ちさえ湧かなかった。
俺にとっての手紙はたったそれだけの存在だった。
「えー…理央は毎日顔合わせて話してるでしょ?」
しかし、今は違う。
「俺も春陽の手紙が欲しい。出来れば熱烈なアピールをしてくれると喜ぶ」
「絶対しない!無理!
ほ、ほら!早く仕事戻ってっ!」
俺はハイハイと何となく予想出来ていた返事に笑いながら、彼女にいつも通りキスをすると仕事場へ戻る事にした。
――こんな日常もあと二週間だ。
二週間後に彼女は退院し、帰宅する。