たった一つのお願い


「さすがですね。御名答です」




だが、正解を言われたなら仕方ない。
俺は苦笑しながら情けなくも答えるしか出来なかった。




「本当に春陽ちゃんは愛されてるんですねー
羨ましいです」



「………は?」




一瞬、思考が止まる。


何故、小旅行計画の話からそちらの話題になったんだ?




「だって先生見てたらどれだけ彼女が愛されているかその現場を見ていなくても分かります」




……そんな事は本当に可能なのだろうか?


俺には全く予想出来ない。そもそも何故こんな言葉を言われるのかも分からない。
たまに手が止まるだけであって俺は至って普通のはずだ。惚気話や春陽の自慢だってした事が無い。……からかわれはするが。




「先生は春陽ちゃんと出逢って目が優しくなりました」



「……そうですか?」




そう言えば前にも違う看護師に変わったと言われたな。




「今の先生の方が魅力的ですよ。春陽ちゃんも大変ですね」



「ハハハ…ありがとうございます」




確かに。

こんなに名前も覚えていない看護師と世間話で会話が続いたのは初めてだ。


俺は気付かぬ内に変化しているみたいだ。
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