たった一つのお願い
「お酒は好きですよ」
俺は笑顔で答える。
とりあえず笑う――それが学生時代にはなかった俺が覚えたさらに人間関係のわだかまりを少なくする術だ。
笑顔が嘘臭いと見抜いた女性も居たが、それでも俺は崩れる事なく彼女の前でずっと笑ってやった。そんなので恋に落ちたり、友人になったりはしない。
いっそ、俺をそのまま嫌ってくれれば良い。そう思っていた。
どうやら俺は随分ひねくれている性格のようだ。
俺の興味を引くものはこの世で二つ。
読書と医学。
この二つに限る。
それ以外の物で興味を持ったことなど何もない。
「――――か?」
あぁ、考え過ぎて聞いていなかった。そう言えば会話中だったな。
「あ、すみません。もう一度お願い出来ますか?」
「今度、私と飲みに行きませんか?と、お誘いしてるんです」
あぁ、またか。そんなのは勿論。
「すみません。遠慮します」
お断りだ。