たった一つのお願い
だけど、そんな人気者みたいな彼と私が係るはずもないとそんなに意識して見た事はなかった。たまに体調が酷い時はお父さんに黙って学校を休む。
お父さんは仕事なのでほとんど家に居ないから、学校への呼び出しも応じる事が出来ない。携帯電話の学校の電話番号登録はお父さんに内緒で勝手に削除しておいた。すると非通知設定になるのでお父さんには気付かれなくてすむんだ。
今は、綿を詰めて、声を低くしてお父さんの声真似で欠席連絡する術も覚えてしまった。
…良心が痛まない事はない。お父さんは私を支えるために働いてくれている。だからこそただの頭痛や眩暈や吐き気とかで心配をかけたくはないし、そんなにひどくない時は学校へ行く。これを使うのは最終手段だ。
「…お前は、もう体育には参加しないのか?」
「いや、体調が良くなったら、するよ」
「そっか。早く良くなると良いな」
この時、私はどうして園田君がこんな派手なナリをして友達がたくさん居るか分かってしまった。
園田君の笑顔は優しくて温かいんだ。なんだか見ているだけで安心してしまう、そんな笑顔。
「ねぇ、園田君はどうして黒染めしないの?」
最初のころはその色でたくさん勘違いされてきたはずなのに。私の記憶が正しければ1度も髪の色が黒いところ見た事がない。それに黒染めしたら噂になるはずだ。
「あぁ、それか。よく聞かれる。だけど別に悪い事してねーんだから俺が変える必要ないだろ?」
「アハハ。本当だ。その通り」
私ってバカだ。なんてくだらない質問してしまったんだろう。