たった一つのお願い


「早く治したいんだろ?何でそんなに病院へ行くのを渋るんだ?」




龍にお父さんにこの症状を秘密にしている事は話していなかった。





「…でもコレは、日にち薬だから…」





きっと、そうだ。誰にでもなく、そう自分に言い聞かせる。





「…走りたいんだろ?」



「――――え?」




私が聞き返すと、龍はポツリポツリと答えてくれた。





「春は、いつも体育の見学でわざわざ運動場が見える位置で見学してるから…本当なら隠れる場所なんて他にもあるのにさ…それって本当は自分も皆と一緒に動きたい、走りたいって思ってるからなんだろ?」



「っ!」





驚きすぎて思わず言葉が出なかった。





「…だったら、早く病院行って、医者に診てもらって、一緒に体育でもなんでもやろうぜ」





龍の言葉が、私の心の中にゆっくりと浸透していく。温かいものを流し込まれた気分だった。
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