たった一つのお願い


何度か違和感はあった。


だけど、癌にかかってるまでとは想像してなかった。


まさか自分がかかるだなんて思ってもみなかったのだ。



今はもう歩ける。話せる。痛みもあんまりない。


でも、私は癌だと祐司先生は言った。そしてソレはもう、手術では取り除けないとも言われた。


私は若いから進行がはやいんだって。





「じゃあ、私はこの病院でこれからもずっと、最期までここから出る事はないのか…」






祐司先生も、看護師さんも居ない、1人の個室部屋でポツリと呟く。


何だか、空っぽの気分だ。




いつか龍が言ってくれたあの言葉を思い出す。




『…走りたいんだろ?』


『…だったら、早く病院行って、医者に診てもらって、一緒に体育でもなんでもやろうぜ』






「…ごめん、龍…私、無理みたい…」





そう言った途端、私の目から涙が零れた。


私って自分が思ってるより、皆と一緒に走りたかったんだなぁ…


こんな事になるなら、昔にコレでもかってぐらい走っておくべきだったな…
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