たった一つのお願い
「ッ…!」
遅すぎる。
何もかもが遅すぎる。
彼女の想いは分かったとしても、それでもやはり
「俺は…目の前で彼女にサインして欲しかった…っ!」
宮ちゃんを呼び出して書くのではなく、
俺に隠れてこっそり書くのではなく、
その嬉しいと言った彼女の笑顔を傍で見たかった。
記入欄を埋める彼女を横から眺めて居たかった。
「――先生、その折鶴も大切にしてあげて下さいね。春ちゃん曰はく、“私の想いを込めた”そうですから」
そう言うと、宮ちゃんは去って行った。
そして紙袋から折鶴を取り出し、暫くこの場から動く気のない俺はソレを眺める。
そしてよく見ると、鶴の白い部分に黒い線が見えた。
彼女にしては上手いが、周りから見れば不格好なそれは、白い折り紙の裏側の部分が所々見えてしまっているのだ。
俺はカサカサと破かないように丁寧に折鶴を広げ、元の形に戻していく。
そこには確かに彼女の想いが書かれていた。