たった一つのお願い


だけど彼女はただただ首を振るばかりでそれ以上は何も言わなかった。




「………理央、先生?」




もう、限界だ。


涙の跡で濡れた白いシーツに俺は片膝をつき、彼女の肩を引き寄せゆっくりと抱き締めた。


今、彼女の頭は俺の腰ぐらいにある。




「―――好きだ」




こんな状況で自分の想いを伝えるのは自分勝手な行動だと分かっている。


俺は彼女の顎を上げて、手を握る。




「漬け込んでも良いか?」



「え…?」



「その傷心に、漬け込んでも良いか?」




そして卑怯だとも分かっている。


昔、何気なくチャンネルを回して見た番組で彼氏と別れた女に優しくすると射止めやすいと見た事があった。


その時は阿呆らしいと思っていたが、まさに今の状況がソレだった。
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