たった一つのお願い
「―――ここまでしますか」
「貴方がここまでさせたんです」
結果、春陽のお父さんは20時頃に帰宅して来た。
まぁ、俺は8時間近く待ちぼうけをくらったわけだ。幸い寒い季節ではないので風邪とかは引かないだろう。足が疲れただけだ。持っていた本は三冊目に突入している。多めに持って来ていて正解だった。
「――仕方ありません。汚いですが、上がって下さい」
春陽のお父さんは、逃げるでもなく、どこか諦めた様子だった。
俺にしてみれば当然の結果だ。俺がそんな簡単に初恋を終わらせるわけがない。
部屋に上がると、テーブルの上に麦茶が置かれた。
「すみません。コーヒーが無いもので」
「お気遣いなく」
別に欲しいと訴えたつもりはないのだが。