ミタマシズメ
シーン1.飛行機
大阪への出張の帰り道だった。

ほんの一時間足らずのフライト。

私は荷物を預け、疲れた身体をシートに凭れかけた。

座席は前方四列目。眠るともなく目を閉じていると

「アッチャン、ここーここ座るのー!」

小さな女の子の声が聞こえた。

「あっちゃんはこっち。ママと一緒でしょ。

そこはパパの席。ね?」

たしなめるような母親の声と共に

「ヤダー!アッチャン一人で座れるの!」と

女の子の声がどんどん近づいてくる。

「しょうがないわね」

母親のあきらめたような声と「ヤッター!」という少女の声。

「すみません」

目を開けるとそこには声から想像していたよりも若い母親と、

犬のぬいぐるみを持った 少女の姿があった。

「うるさくするようでしたら後ろの席に座らせますので、

この子お隣に座ってもいいですか?」

「ああ。構いませんよ」

すみません。と頭を下げた母親の耳たぶで、

柔らかなピンク色の楕円のピアスが揺れた。

その横で、小さく飛び上がった少女の二つ結びの髪の束が跳ねた。

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