ミタマシズメ
「ママ…ママぁーー…!!」

少女は母親に抱きつき、わぁわぁと泣き始めた。

気がつくと、あちらこちらで小さな子供の

泣き声や叫び声がしていたが、

大人たちは不気味なほど静まり返り、

示し合わせたように、誰一人大きな声は発していなかった。

ただただ黙々と救命胴衣を身につけたり、

身につけ方をCAに教わったりしている。

落ち着け。落ち着くのだと自分に言い聞かせ、

救命胴衣を身につけた後、私は少女の母親に静かに言った。


「ご自分の席について、救命胴衣をつけてください。

…お子さんは、私が守りますから」


少女の母親は、一瞬「え?」という戸惑いの表情を見せたが、

回って来たCAにも席に着くよう促され、「あっちゃん…」と

少女に何かを言いかけたかと思うと、ふと目を和らげ、

「おじいちゃんとこに着いたら、あっちゃんの大好きな

チョコアイス食べようね」

「うん…」

泣き声で小さく答えた少女の手をキュっと握り、

ふぅーっと長い息を吐いた後、 私にお辞儀をして、

ゆっくり席に戻った。


それが私が耳にした、少女と母親の最後の会話だった。
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