僕と人混み
僕と人混み
駅に着いた途端、改札口目指して人の波が荒れ狂うように溢れ流れ、そして散らばって行く。
肩がぶつかっても足を踏まれても何事もなかったように、人の波へと隠れ消えていく光景。
僕が子供なら、絶対人混みに揉みくちゃにされて行き先見失って迷子だな……
「なぁにやってんのよ。ボケッとしてたら、遅刻よ」
駅前で立ち尽くす僕の目の前に、突然現れたのは会社の上司だった。
形のよい耳が可愛いと感じる短めの黒髪に、ふっくらとした胸を包み込むように紺のスーツをきっちりと着こなす姿を見て、頬が熱くなるのを感じた。
満員電車で乱れたスーツを整えないだらしがない自分が、ちょっと恥ずかしい。
一回りしか違わない上司は、僕をいつも子供扱いするから、迷子になりました、と冗談混じりに笑って挨拶を返した。
そしたら、ほら急いで!…と笑顔で手を握ってきた。
冗談返しだと思い、すぐに離れると思った手は、僕の手をしっかり握ってくれる。
人の笑顔やぬくもりを感じると、今日も頑張っていける、楽しいことが待っていそう、そう思えてくるから不思議だ。
僕はその小さく可愛らしい手を、離したくないと思った。
今は、ね。
肩がぶつかっても足を踏まれても何事もなかったように、人の波へと隠れ消えていく光景。
僕が子供なら、絶対人混みに揉みくちゃにされて行き先見失って迷子だな……
「なぁにやってんのよ。ボケッとしてたら、遅刻よ」
駅前で立ち尽くす僕の目の前に、突然現れたのは会社の上司だった。
形のよい耳が可愛いと感じる短めの黒髪に、ふっくらとした胸を包み込むように紺のスーツをきっちりと着こなす姿を見て、頬が熱くなるのを感じた。
満員電車で乱れたスーツを整えないだらしがない自分が、ちょっと恥ずかしい。
一回りしか違わない上司は、僕をいつも子供扱いするから、迷子になりました、と冗談混じりに笑って挨拶を返した。
そしたら、ほら急いで!…と笑顔で手を握ってきた。
冗談返しだと思い、すぐに離れると思った手は、僕の手をしっかり握ってくれる。
人の笑顔やぬくもりを感じると、今日も頑張っていける、楽しいことが待っていそう、そう思えてくるから不思議だ。
僕はその小さく可愛らしい手を、離したくないと思った。
今は、ね。