黄金時間が過ぎるまで〜番外編
       †                       「花園…空気が悪いんだけど…」

千歳が顔をしかめて言った。

まさに今、予選大会の舞台の上に立って、セッティングをしている最中…花園は千歳に、舞台のそでに呼び出されたのだった。

何校かの演奏が終わり、いよいよ自分達の番…という時に部内の空気…特に女子部員の空気が悪い事を、千歳が指摘したのだった。

花園は一瞬、千歳の迫力にたじろいだが、タクトを肩に当ててトントンと叩くと、人懐っこい笑顔で答えた。

「大丈夫、何とかなるよ、千歳」

おいおい…と心の中で千歳が突っ込む…

その根拠のない自信は、どこから出てくるのか…

元を正せば花園が数日前、部内の女子をフッた事が発端ではないか…

その張本人がタクトを握り、指揮者として部員の前に立つという事が、どれだけ演奏に響くのか…
考えると頭が痛い千歳だった…

千歳は一つため息をつくと、こう言った。

「責任取れよ…」

「えへへ…」

嬉しそうに、花園は舞台に戻りながら笑っていた。

花園は指揮台に立ち、楽譜をチェックすると顔を上げて、部員の顔を見渡し…人懐っこい笑みを向ると一礼した…

「…次はエントリーナンバー4番、楓中学ブラスバンド部による演奏です…」

会場にアナウンスが響いた。
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