ありのままのキミ
もう言うことがなくなったのか、中尾は拳を震わせながらも黙る。
「私を退学にさせる口実を作りたいようだけど残念でしたー。一応、敬鈴高校は卒業させてもらうつもりなんで。そこんとこ、よろしく~」
ヒラヒラと手を振りながら職員室をでる。中尾なんてチョロい。魂胆見えすぎなんだもんなー。
あ、トイレ行こ。
帰る前にトイレに行きたくて近くのトイレに入ろうとした。が、中から声が聞こえてドアに伸ばしかけた手を引っ込める。
「中尾先生。また鮎川さんに絡んでましたね」
「ね。中尾先生、鮎川さんを目の敵にしてるからねー」
今年、入ってきたばかりの新米の女教師と英語科の教師の声だ。
「でも鮎川さんには困ったわー」
「そんなに問題児なんですか?」
「うーん。喧嘩はするし、校則は守らないし。でも頭はいいからあからさまに問題にも出来ないし」
「何かこう、読み取れない子ですよね。私が見てる限りあまり表情も変わらないし、高校生らしくないっていうか。家庭に問題あるんでしょうか?」
「んー、どうかしら。両親はお仕事で忙しいみたいで家にもあんまりいないみたいだけど」
こっちで私が聞いているとも知らずに世間話をするように私のことをペラペラと話している二人。
私も何故だか、ここを立ち去りたいのに足は動かない。
「私、子供欲しいですけどああいう子は嫌だなぁ。なに考えてるか分からないじゃないですか」
もっと感情豊かな、と力説している新米教師。
…………聞きたくない、気がする。
予感と言うかこの後、どういう話の流れになるのかが何となく分かってしまって。
でも足が動かない。
「確かにそういう目線で考えると、両親から─────」
イヤだ。
聞きたくない。
「───見放されたのかもね」