ありのままのキミ
次の週末。
忙しい両親が揃って家にいる日がやっと来た。
家の前で心臓バクバクで死にそうな私をよそに隣で平然と立っている広瀬。
非常に腹立たしい。
てか、心臓がこんなに暴れるなんて前代未聞だ。心臓が口から出そうなんてもんじゃない。破裂間近だ。
幼稚園でお漏らしを隣で寝ていた直樹くんのせいにした時よりも心臓が暴れている。
これっ。私の心臓。いつまでも踊ってないで座って絵本でも読んでなさいっ。
「………大丈夫か?何かおかしいぞ?」
「ええ。何がですか?大丈夫って、逆に聞きますけどあなたが大丈夫ですか?」
「いや、やっぱお前おかしい」
広瀬はコイツまじで頭イってる人、的な目で私を見る。やめて、今この状況でその目はキツいから。
「なら、行くぞ」
「待ってっ!ちょ、心の準備っちゅーもんが」
広瀬は玄関を開けようとドアノブに触れる。
「心の準備?もう十分だろ。かれこれ三十分は心の準備でここにいるんだぞ」
「……だよな」
ドアノブに触れては離して、触れては離して。
それを繰り返し。あぁ、なんて弱虫。
いや、こんなことしてる場合じゃない。
よし、行くぞ。知佳!お前なら出来る!
ドアノブに触れる。
微かに震える手には知らないフリだ。
「───大丈夫」
「え?」
広瀬はポンッと私の頭の上に手を乗せるとそう言ってワシャワシャと頭をかき混ぜる。
「俺がいる。心配するな」
「…………ふ。私を誰だと思ってんの?」
「はっ。生意気」
手の震えが、止まった─────。