ありのままのキミ
「……あれ、お前。昨日の」
シーンとなったロビーに聞いたことのある声が響いた。
「広瀬…」
「すいません。コイツ俺に用事あると思うんで、手、離してやってください」
広瀬がそう言えば警備員がすいませんっと腕を離し、謝ってくる。
後ろで受付嬢が「ああ。こっちか」とか何とか言ってるけど何が?
まぁ、いいや。っと目的を果たさなければ。
「これ」
高級そうな紙袋に入ったマドレーヌを差し出せば、広瀬は何だ?とでも言いたげな顔をする。
「昨日のお礼。仮にも厚意でしてくれたワケだし、こういうのはちゃんとするべきだと思って。じゃ」
「あ、待て待て」
紙袋を押し付けて帰ろうとすれば広瀬からストップがかかる。
「もう仕事上がるからちょっと待ってろ。飯連れてってやる」
それだけ言い残してエレベーターの中へと消えた広瀬。
待てって言われたけど……。
帰ろ。
踵を返してドアへと向かうと警備員に止められる。
「何処に行かれるんですか?まさか帰ろうなんて、思ってないですよね」
ニッコリと笑う警備員。後ろには同じくニッコリの受付嬢。