人な私と機械な君と
 ___カツ、カツ、カツ、と壇上に上がっていく生徒が1人・・・___。

歩き方、道の曲がり方、そして階段の上がり方・・・・・・その一つ一つの行動が完璧な男性が壇上の前に立つ・・・_。

すべての聞いていた生徒達、話していた生徒達が一斉にその1人の男性から目が離せなくなる・・、いや魅了されていたと言ってもいいのでしょう____。

ただの1人の男子生徒が壇上に立つだけで2500人ものすべての人達が目を奪われ虜にされ、静まり返り、そして、講堂の空気全体を一瞬で変えてしまった・・・___。

一瞬私はこの講堂の場の時間だけが凍りついてしまったかのように錯覚を起こしてしまった____。

今まさに動く事が出来るのは唯一彼一人だけ・・_____。

今、皆はこう思っているに違いない・・・・・・____。

ただ・・・・ただ・・・・彼が、[美しい]、と・・・・・・__________。

少しづつ止まっていた時が動き始めていく・・・・______。

生徒達は行動する事を[許された]かのようにざわめきを取り戻していく________。

「ねぇねぇ、あの人ってまさかさ・・・・。」

「うんうん、そのまさかだよね・・・。」

そう小声で話す女子達がいる____。そう、そのまさかである___。

彼の名前は海堂 悠(かいどう ゆう)。あらゆる分野の才能を持ち、この学園始まって以来の学力をも持つ_____。去年開催されたミスタープリンスコンテストで堂々の1位に輝き、また300人超のファンクラブが作られる程の美形の持ち主でもある。しかも長身で八頭身以上あり、もはやモデルというより一つのアート・・・・・・、動く芸術作品と言っても全く可笑しくはない____。

ただ彼は完璧過ぎ、芸術として完成され過ぎているせいもあるのか、その代価として人間のアイデンティティとも言える感情を殆ど表に出すことがない、いや、むしろ感情がないのかもしれない___。

変な言い方になってしまうかもしれないけど、[個性]があり過ぎて逆に[個性]がない・・・____。

つまり言い換えるのであれば、彼は[人]ではなく・・・・・、[人]のように作られた[機械(ロボット)]と言った方が近いのかもしれない_____。

講堂では・・・・。

「海堂だ・・____。」

「海堂くんよ・・___。」

「海堂ってやつだよね・・____。」

「海・・・・堂・・・_____。」

と、彼の名前を呟く生徒達___。

彼を知らない人はこの学園にはいない。多分この泉の森町全体でも彼を知らない人物はいないと言ってもいいのかもしれない・・・・____。

そして彼がマイクを取って話し始めた・・・____。

「___・・・今年も、新学期の春を迎えました・・______。」

まただ・・・____。また、講堂のすべての人達が一斉に言葉を失って、時が止まってしまった・・・____。

例えるならば壇上は舞台で、彼が役者、私達が観客・・・・__。

話していいのは彼だけ・・・___。

演じていいのも彼だけ・・・___。

そう、唯一彼だけが[許されて]いるのだ_____彼だけが・・____。

私達が[許されて]いることは彼を見ることと、彼の話しを聞くことだけ・・・・____。

マイクのアンプ越しから聞こえる彼の透き通るような声は自然と耳に入っていく・・・___。

内容は今後の1学期の予定、今月の習慣目標、健康管理について、ボランティア活動について、新設予定について・・・・。そんな私達には関係のないことまで、まるでポエムのように頭の中に蓄積し、私達が意識しなくても彼が話した2枚半程の原稿の一語一句をすべて記憶してしまう・・・・_____。

「__・・・以上で、私の報告を終わります・・・。」

そう言って彼はゆっくりと一礼をする・・・・・____。

講堂の生徒達は魔法が解けたかのように動きを取り戻し始める・・・____。

「すげぇ・・・・。」

と誰かが呟き拍手を送る・・・____。

それにつられるように拍手の波が講堂全体へと伝わっていく・・・・____。

ただ彼は壇上に立ち、この学校の報告をしていただけ・・・ただそれだけのことで、いや、ただ私達にはそれが演技のように見え、その演技が終わりを告げることで拍手喝采が巻き起こるような形になってしまっただけのこと・・・・____。

そして、観客達は彼が自分の場所へと戻るのをいつまでも見送る・・____。

「皆さん、静粛にお願い致します____。」

そう司会者が言った・・・。しかし、それから数十秒程、拍手が鳴り止むことはなかった・・・________。









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