リタイア宣言【TABOO】
「私、走るのやめるからねっ!」
百メートルは先に進んでしまった彼にその声が届いたのかは不明。
ガードレールにお尻をつけると、とにかく呼吸を整えることにした。
「やめるのはいいけど、座らないほうがいい。立てよ」
突然、現れたのは黒いジャージ姿の男だった。表情なんてものはなく冷たい口調でそう言うと私の腕を掴む。
「や、やめてください!」
「親切で言ってやってるんだ感謝しろ」
その声を聞いて、もう一度男の顔を確認する。この人……うちの会社の営業課の人だ……
確か、一人で三億の契約をとってきたとか、ライバル社を潰したとか、何かと話題になる人。
おまけにクールで人付き合いが悪いから、何を考えてるのかわからないけど、その抜群の容姿で女子社員からの評判はすこぶる良しだ。