TRAP!
依頼主は……、最近様子がおかしい恋人の浮気を…疑っているらしい。
ターゲットは、私と同い年の……男。
端正な顔だちだからすぐにわかるよ、と所長に言われて。写真を見せられた私は、一瞬……、言葉を失った。
「渡 蒼生(ワタリアオイ)。」
所長が口にした名前は。通称ー……、ワタリ。
こともあろうに。
私の……元カレ。
些細なことで…喧嘩別れした、高校時代の…彼氏であった。
先日、部屋を整理していた際に……彼との写真を見つけたばかりだった。
なんというタイミングなのか……。
偶然とは、末恐ろしいものだ。
おとり調査が行われる場所は……、居酒屋。
同僚の誘いを受けて、「飲みに行く」と言っていたらしい彼に…、私が、誘惑を掛ける。
まあ、こんな女にひっかかるようでは…本当に、軽い男であろう。…が、ターゲットであるそいつは…浮気をするような男ではないと、重々解っている。もちろん…、簡単に引っ掛かるとは…思えない。
ましてや、相手が…私だ。
今さら、罠に引っ掛かるとも…思えない。
警戒……されるであろうか。
自分じゃない誰かに、調査を頼めば…良いことだった。
その方が、効率よく調査は進められるとわかっているのに……、それを…しなかった。
何故かは……自分でもわからない。
ただ、時が経って……
互いに歳を重ねたあの人が、今どうしているのかを…知りたかっただけかもしれない。
もう、お互いに……恋人という存在が、いるというのに……。