あたしを満たして…


届いた五杯目のビールに口をつけ、隣でネクタイを緩める仕草を盗み見る…。

ゴツゴツ骨ばった、大きな手。ワイシャツの上からでも分かる、逞しい体躯。ビールを飲む度上下する、喉仏…。


「あんまそんな目で見るなよ」


低い声で囁かれて、ハッとする。

再びビールを喉に流し込んで、
「見てないわよ」
ふいっと視線を逸らす。


・・・嘘。

あたしは、隣にいるコイツに男を意識した。



「…俺が、満たしてやろうか?」


隣の笹宮から顔を背けていたら、耳元に、不意打ち。
艶を含むその声だけで、不覚にもゾクっと背中に甘い痺れが走る。


「なっ、何言ってんの? あたしには、彼氏がいるし、笹宮にはいくらでも女子が寄ってくるでしょ?」


出世頭なだけでなく、整った顔立ちのイケメンとくれば社内で人気も高いのだ。

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